函館蔦屋書店に足を踏み入れた瞬間、多くの来訪者が息をのむのは、天井高のある木調の吹き抜けと、中央に設えられた象徴的な暖炉です。一般的なロードサイド型書店とは根本的に異なり、空間そのものが「滞在することの幸福」を目的として構築されています。地元住民の日常使いはもちろん、遠方からの旅行者がわざわざレンタカーやバスを走らせて訪れる背景には、計算し尽くされた3つの理由が存在します。
第1の理由は、「家でも職場でもない居場所(サードプレイス)」の徹底した具現化です。館内には座り心地の異なる多種多様なソファやデスクが配置され、購入前の書籍をコーヒー片手にじっくり選べる仕組みが整っています。静寂に包まれながらも適度な環境音が漂い、周囲の視線を気にせず思考を深められる環境は、地方都市において極めて希少な資産となっています。
第2の理由は、多世代のニーズを同一フロア内でシームレスに満たすテナント構成です。大人が文芸書やデザイン書、カルディの輸入食品に夢中になっている間、子どもたちはボーネルンドの知育玩具やキッズパークで好奇心を爆発させることができます。買い物の用件ごとに別々の施設を巡る必要がなく、家族全員がストレスなく個々の時間を謳歌できる設計が支持されています。
第3の理由は、地域カルチャーのプラットフォームとしての熱量です。後述する中央マルシェやポップアップスペースでは、地元のクラフト作家、道南のベーカリー、注目のアーティストが週替わりで登場します。いつ訪れても新しい出会いや発見が用意されており、「本を買いに行く場所」から「函館の今を体験しに行く場所」へと完全に昇華しています。