実際の臨床現場や医療相談窓口に寄せられる当事者の手記を紐解くと、「まさか自分が重大な病気だとは思わなかった」という告白が後を絶ちません。ある50代男性は、仕事中に階段を降りる際、突如カクンと膝から崩れ落ちる感覚を覚えました。当時の手記にはこう記されています。
「最初は単なる寝不足か、前日のジョギングによる筋肉痛だろうと高をくくっていました。同僚に『足を引きずっているぞ』と指摘されても、少し休めば治ると信じ込んでいたのです。しかし夜になってスマートフォンの操作がおぼつかなくなり、翌朝病院へ運ばれたときには、すでに脳幹近くの小血管が詰まり、回復には数カ月の集中リハビリを要する状態でした」
このように、歩行中に前触れなく膝の支持力が失われる現象は「膝折れ(giving way)」と呼ばれます。膝折れ脱力感危険性の核心は、転倒による大腿骨頸部骨折や頭部外傷といった二次被害のリスクだけでなく、運動神経伝達の深刻な遮断を意味している点にあります。特に大腿四頭筋を支配する大腿神経麻痺や、腰椎の第3・第4神経根障害、あるいは脳の運動野の障害によって、自らの意思とは無関係に支持基底面が崩壊してしまうのです。
さらに見過ごせないのが、高齢者急に足に力が入らないと訴えて救急外来を受診するケースです。SNSや知恵袋等のコミュニティでも「同居する親が急に立てなくなった」という切実な相談が散見されますが、高齢者の場合は発熱や誤嚥性肺炎、尿路感染症などの全身性感染症が引き金となって急激な廃用性脱力を生じるケースや、骨粗鬆症に伴う骨盤骨折・脊椎圧迫骨折が潜んでいるケースが多発しています。本人が「痛くない」と口にしていても、神経麻痺によって感覚が鈍麻しているケースがあるため、客観的な動作観察が命運を分けます。