愛犬の足の裏から激しく出血しているのを見て、「動脈が切れたのでは」とパニックに陥る飼い主は多いです。しかし、犬の肉球の怪我で血が止まりにくい最大の理由は、肉球組織特有の解剖学的構造にあります。肉球(掌球・足根球・指球)は、厚い角質層の直下に無数の毛細血管とクッションの役割を果たす弾性繊維が張り巡らされており、わずかな裂傷であっても持続的に血液が滲み出します。さらに、犬が興奮して心拍数が上がると血圧が上昇し、傷口が開いて出血が助長されます。
現場で最も効果を発揮する犬の肉球の圧迫止血のやり方は極めてシンプルですが、正しく行わなければ意味を成しません。まずは飼い主自身が深呼吸をして落ち着き、愛犬を優しく保定することから始めます。
止血の第一歩は、清潔なガーゼや清潔なタオルを厚めに折り畳み、出血点に直接当てて指で垂直に「ぎゅっ」と強めの力で押し続けることです。ここで多くの飼い主が犯す典型的なミスが、「血が止まったかどうか」を不安に思い、数秒おきにガーゼを外して傷口を確認してしまう行為です。血液が凝固して血栓(かさぶたの元)が形成されかけている最中にガーゼを剥がすと、組織が引っ張られて再び出血が始まってしまいます。時計を見ながら最低でも5分から10分間は絶対に手を離さず圧迫し続けることが医学的な鉄則です。
もし異物が表面に付着している程度であれば、常温の水道水で軽く洗い流してから圧迫します。ただし、深く刺さっている異物を無理に引き抜くと大出血を引き起こす危険があるため、触らずそのまま病院へ急行しなければなりません。