長野県上田市、かつて塩田平の繁栄を支えた「信州の鎌倉」と呼ばれる風光明媚な地に、旅館 花屋はある。敷地面積は約6500坪。その広大な傾斜地に、渡り廊下で結ばれた木造平屋・二階建ての客室や大浴場が点在している。驚くべきは、敷地内のほぼすべての建造物、計数十棟が国の登録有形文化財に指定されているという事実だ。
大正6年(1917年)の創業当時、宮大工の手によって贅を尽くして建てられた意匠の数々。釘を使わずに組まれた格天井、微妙に歪みのある大正時代の手吹きガラス、アールデコ調のステンドグラスから差し込む柔らかな光線。どれ一つとして現代の均一なプレハブ工法では再現できない、工芸品のような空間が連なる。迷路のように入り組んだ木造回廊を歩くだけで、まるでタイムカプセルに閉じ込められたかのような錯覚に陥るはずだ。