深海奏汰という存在を語るうえで避けて通れないのが、実家である「深海家」が抱える異常な背景だ。海を神聖視する特異な信仰の対象、いわば「生きた神」として祀り上げられていた少年時代。世俗から隔絶された環境で育った彼は、靴の履き方すら知らず、常識的な人間関係を築く機会すら奪われていた。
自分自身を「にんげん」ではなく「かなた」という役割でしか認識できなかった孤独。かつて学院を覆っていた陰湿な序列闘争の中で、彼はある種の生贄として扱われ、その結果として心に修復し難い傷を負った。水のない場所では息ができないと訴える奇行の裏には、陸の社会という現実世界に対する強烈な拒絶と恐怖が張り付いていたのである。