インスタ蝿による実害は、飲食店のテーブルの上だけにとどまりませんでした。美景や珍しいアングルを求める過剰な熱狂は、屋外の観光地や住宅街にまで飛び火し、私有地立ち入り禁止トラブルやオーバーツーリズムと観光公害という深刻な社会問題へと発展しました。
象徴的な事例として知られるのが、景勝地の花畑や農業用地への無断立ち入りです。北海道の雄大な丘陵地帯や千葉・山梨などの観光農園では、「立ち入り禁止」の多言語看板が設置されているにもかかわらず、ロープをくぐり抜けて作物を踏み荒らす撮影者が後を絶ちませんでした。靴の裏に付着した見知らぬ土壌菌によって作物が全滅するリスクに晒された農家が、苦渋の決断として名物だった美しい木を伐採せざるを得なくなった悲劇は、当時多くのメディアで大々的に報じられました。
さらに都市部や観光地では、飲食店での写真撮影禁止対策が本格化しました。東京都内の老舗ラーメン店や名門喫茶店の中には、「料理の温度が下がる」「他のお客様のプライバシーが侵害される」という理由から、店内の撮影を一切禁止する張り紙を掲げる店舗が相次ぎました。また、富士山を背景にしたコンビニエンスストアの屋根越し風景に外国人観光客を含む撮影者が殺到し、車道横断やゴミのポイ捨てが常態化した結果、自治体が巨大な黒い遮光幕を設置して撮影スポットそのものを塞いだ事例は、世界的なニュースとして記憶に新しいところです。