トルコキキョウという名称は、植物学的な事実を知ると驚くべき矛盾に満ちています。実はこの花、「トルコ原産」でもなければ「キキョウの仲間」でもありません。
原産地は北アメリカ中南部の乾燥地帯であり、植物分類上はリンドウ科ユーストマ属に属します。学名は「Eustoma russellianum(ユーストマ・ラッセリアナム)」、旧学名では「Lisianthus(リシアンサス)」と呼ばれ、園芸界やフローリストの間では現在も「リシアンサス」「ユーストマ」の名で親しまれています。
では、なぜ日本で「トルコキキョウ」と呼ばれるようになったのでしょうか。諸説ありますが、主に以下の理由が伝えられています。
- 咲き姿の類似:一重咲きの花の形やつぼみの巻き方が、トルコ人が頭に巻く「ターバン」に酷似していたため。
- 色彩の連想:原種が持っていた鮮やかな紫青色が、地中海やトルコ石を連想させたため。
- キキョウに似た花形:花の開き方が日本のキキョウに似ていたことから、海外から渡来した珍しいキキョウという意味で「トルコキキョウ」と命名された。
大正時代から昭和初期にかけて日本に導入された当初は、紫の一重咲きで比較的小ぶりな花でした。しかし、長野県をはじめとする日本の篤農家や種苗メーカーが驚異的な品種改良を重ね、世界を驚かせるゴージャスな八重咲きや波状弁(フリル)、多彩なパステルカラーを生み出しました。現在、世界中の花市場で流通しているハイクオリティなトルコキキョウの多くは、日本発祥の育種技術の結晶です。歴史を知れば知るほど、この花がいかに繊細な美意識と職人技に支えられているかが理解できます。