三枚におろした身をそのまま刺身にすることはできません。口当たりを滑らかにし、料亭のような洗練された味わいに昇華させるためには、ここからの精密な下処理が不可欠です。
まず行うべきは、さんま腹骨のすき方です。おろした身の内側には、内臓を保護していた弓状の腹骨(肋骨)が残っています。大手料理メディアの指南データにも見られる通り、身の腹骨が左側になるようまな板に配置し、包丁の刃を寝かせて骨の湾曲にピタリと沿わせます。刃を左から右へ大きく滑らせながら骨の薄皮を削ぎ、最後に骨の先端を切り離す瞬間だけ刃を軽く立てて引き切ることで、貴重な腹側の脂身を削り落とすことなく骨だけを完全に分離できます。
次に、さんま骨抜きのやり方を実践します。さんまの中央部(血合い部分)には、体軸に向かって小骨(血合い骨)が並んでいます。指先で身の表面を頭から尾に向かって優しく撫でると、チクチクとした骨の頭を感じ取ることができます。骨抜き用ピンセットを使用し、骨が生えている角度(頭側へ斜め前方)に沿って優しく引き抜くのがコツです。真上や尾の方向に無理に引っ張ると、身を巻き込んで大きな穴が開き、美しいサクが台無しになってしまいます。
骨を処理したら、さんまの三枚おろし皮の剥ぎ方に移ります。青魚の皮引きは包丁を使うのが一般的ですが、脂が豊富なさんまは「手で剥ぐ」手法が最も美しく仕上がります。頭側の端から爪先を使って皮と身の間に少しだけ隙間を作り、そこへ身が崩れないよう親指を滑り込ませます。清潔なキッチンペーパーで皮の端をしっかりとつまみ、身をまな板に軽く押さえつけながら、尾に向かって一定の力でゆっくりと引っ張ります。この方法であれば、皮の直下にある濃厚な旨味を持った「銀皮(脂の層)」を身側に美しく残すことができます。
そして、生食において絶対に怠ってはならないのが、さんま下処理アニサキス対策です。厚生労働省が公表している食中毒統計データでも、青魚に寄生するアニサキスによる被害は毎年多数報告されています。アニサキス幼虫は長さ2〜3cmの白色の線状で、鮮度が落ちると内臓から身へと移動する性質を持っています。家庭用の一般的な冷凍庫(約マイナス18度)では芯まで死滅させるのに十分な冷却スピードを担保しにくいため、家庭で生食する場合は「信頼できる鮮度の丸魚を選ぶこと」「内臓を即座に除去すること」、そして「サクの表裏から強い光(スマートフォンのライト等)を当てて目視で丹念に確認すること」を徹底してください。身に細かく隠し包丁を入れておくことも、物理的に虫体を寸断してリスクを低減させる有効なプロの知恵です。