漢字二文字で構成されるミステリアスな苗字は、画数のバランスの良さと語感の鋭さから、独特の威厳を漂わせます。「叢雲(むらくも)」「鬼頭(きとう)」「逢坂(あいさか・おおさか)」「神楽(かぐら)」などはその好例です。
しかし、ネット上で「かっこいい」「羨ましい」と賞賛される一方で、当事者たちの日常生活には特有の苦難がつきまといます。匿名掲示板やSNS、知恵袋に寄せられた当事者たちの手記や取材証言からは、リアルな実情が浮かび上がってきます。
「病院の待合室で名前を呼ばれた瞬間、周囲の視線が一斉にこちらへ向く」「学生時代、アニメのキャラクター名をもじってからかわれ、自分の苗字を名乗るのが嫌で仕方なかった時期がある」という告白は枚挙にいとまがありません。さらに実務面でも、「既製品の三文判がどこにも売っておらず特注になる」「クレジットカードや銀行のWeb審査で『実在しない氏名』とシステム判定されて弾かれた」といった、珍名ならではのシステム的障壁が存在します。
思春期には過剰な視線に対する羞恥心やプレッシャーを感じつつも、大人になるにつれて「一度で顔と名前を覚えてもらえる営業上の武器」「代えの利かない家門のプライド」へと自己認識が昇華していく――。そこには、名前という記号と自己同一性(アイデンティティ)がせめぎ合う、深い人間ドラマが存在しています。