健康診断の心電図検査で「デルタ波(Delta wave)」を指摘された場合、まず理解すべきはその発生メカニズムです。デルタ波は単独の疾患名ではなく、心臓の電気伝導に異常が生じていることを示す心電図異常波形の一つです。
正常な心臓では、右心房にある「洞結節」から発生した電気刺激が「房室結節」という中継地点を通り、時間的なタメ(適度な遅延)を作ってから「ヒス束」「脚」「プルキンエ線維」を経て心室全体へ伝わります。この精密なタイムラグによって、心房が収縮して血液を心室に送り込んだ後、心室が力強く収縮して全身へ血液を送り出すという規則正しい拍動が維持されています。
しかし、生まれつき心房と心室の間に「副伝導路(代表的なものがケント束)」と呼ばれる余分な電気の抜け道が存在する人がいます。ケント束は房室結節のような電気のブレーキ機能を持たないため、心房からの刺激が正常ルートよりも早く心室の一部にフライングして伝わってしまいます。このように心室が通常より早く興奮する現象の総称を早期興奮症候群と呼び、その代表格が「WPW症候群(Wolff-Parkinson-White症候群)」です。
心電図上では、フライングして興奮した心室の波形が、通常の鋭い立ち上がりではなく「なだらかなスロープ状」として記録されます。この初期の緩やかな立ち上がり部分こそがデルタ波です。デルタ波が存在することにより、心電図では以下の3大特徴が同時に観察されます。
- PR短縮:電気刺激が副伝導路をショートカットして早く心室に届くため、P波の始まりからQRS波の始まりまでの時間(PR間隔)が通常(0.12秒以上)より短くなる。
- デルタ波の出現:心室筋がケント束経由で異常に早く興奮し始めることで、QRS波の立ち上がりに斜めの傾斜が生じる。
- QRS幅拡大:フライングした部分と正常ルートから伝わった部分の興奮が合流するため、結果としてQRS波全体の幅が0.10秒〜0.12秒以上に広がる。
日本循環器学会の診断指針においても、これら心電図所見を満たすものがWPWパターン(早期興奮パターン)と定義され、これに動悸などの頻拍発作が伴う場合に臨床的な「WPW症候群」と診断されます。