恐怖や警戒の対象であった「悪い顔」を、極上のポップカルチャーへと昇華させた決定的な転換点が存在します。それこそが、お笑いコンビ・チョコレートプラネットによる「悪い顔選手権」です。
この企画の元ネタは、2020年秋に公式YouTubeチャンネルで公開された1本の検証動画でした。「ニュース番組で逮捕された容疑者が護送車から降りて警察署に入る際、どんな顔をしていても悪人に見えるのではないか」という着想からスタート。スタッフや芸人仲間、さらには著名人を招き、「いかにも犯罪に手を染めていそうな表情」をスタジオ照明と報道風テロップを駆使して競い合わせたところ、瞬く間に社会現象となりました。
長田庄平さんと松尾駿さんが見せたのは、単なる怒り顔ではありませんでした。巨額詐欺を首謀した投資コンサルタント風の虚無を湛えた笑み、下町の横領事件で捕まった町工場幹部風の不貞腐れた横顔など、「逮捕の文脈」をリアリティたっぷりに誇張した絶妙な表情芸でした。これに対する悪い顔のネット反応は爆発的で、「あるあるすぎて腹筋が崩壊する」「人間観察の解像度が高すぎる」と絶賛され、芸能界やスポーツ界を巻き込む巨大コンテンツへと発展したのです。
このブームを経て、ネットスラングとしての悪い顔の意味は決定的な変容を遂げました。本来の「悪人の顔つき」というネガティブな語義から、「悪巧みをしてほくそ笑んでいる顔」「バレバレのいたずらを仕掛ける瞬間の表情」という、茶目っ気やユーモアを含んだポジティブな褒め言葉へとスライドしたのです。言葉のグラデーションが広がったことで、コミュニケーションの潤滑油として「今日のお前、悪い顔してるな」と笑い合える土壌が完成しました。