人津久海水浴場の前に立つと、誰もが「ここは本当に本土の海なのか」と錯覚します。透明度は浅瀬であれば数メートル底の小石や砂紋がくっきりと肉眼で捉えられるほど。なぜ平戸の片隅にあるこのビーチが、沖縄の離島に匹敵するほどの景観を生み出しているのでしょうか。行政の公表データと海洋地理学的アプローチから分析すると、3つの決定的な自然条件が重なり合っていることが判明します。
第一の理由は、外洋からダイレクトに差し込む対馬海流(暖流)の存在です。人津久海水浴場が面する平戸島西岸は、東シナ海から日本海へと北上する清澄度の極めて高い黒潮の分流がダイレクトにぶつかる海域。閉鎖的な内海とは異なり、外洋の新鮮な海水が潮の干満とともに常に循環し、澱みが一切生じない構造になっています。
第二の理由は、海水を濁らせる流入河川が存在しない特殊な地形です。一般的な海岸では、背後の山や集落から川が泥土や有機物を運び込み、雨後や波立ちによって水が茶色く濁ります。しかし人津久の集水域は非常に小さく、生活排水や土砂が海へと流れ込む大規模な河川が皆無。降雨時でも透明度が急速に回復するのはこのためです。
第三の理由は、天然の白砂(石英および微細な貝殻片)が敷き詰められた海底構造にあります。黒っぽい泥や火山灰を含まない純度の高い白い砂地は、太陽光を強く乱反射させます。その反射光が浅瀬の水深と反応することで、息をのむようなエメラルドグリーンとターコイズブルーの色彩が生み出されるわけです。環境省が公表する毎年の海水浴場水質調査においても、COD(化学的酸素要求量)や糞便性大腸菌群数、透明度すべての基準を極めて優秀な数値でクリアし、最高評価の水質ランクAAを毎年獲得し続けています。