レバーを回した瞬間、勢いよく流れるはずの水が渦を巻かずに水位を増し、便器から溢れそうになる――この現象は、便器奥入りのトラップ構造と配管の物理的な閉塞によって引き起こされます。洋式トイレの内部には、下水道からの悪臭や害虫の侵入を防ぐために水(封水)を溜めておく「封水トラップ」と呼ばれるS字状の細い曲がりくねった流路が組み込まれています。もっとも狭い部分の直径はわずか数センチメートル程度しかありません。
この狭窄部に、一度に許容量を超える紙や固形物が流れ込むと一気に水流が遮断されます。取材協力に応じた給水装置工事主任技術者によると、トイレ水が流れない原因と真相の約7割は「トイレットペーパーの過剰投入」と「水流レバーの大小の誤用」に起因していると明かします。近年の主流である節水型便器は大洗浄でも約3.8〜4.8リットル前後の水量しか使わないため、トイレットペーパーを多めに使った際に「小」レバーで流すと、排水トラップを通過しきれずに滞留して詰まりの核を形成してしまうのです。
また、流せるお掃除シートや流せるお掃除ブラシも油断できません。製品規格上「水溶性(水解性)」を謳っていても、トイレットペーパーのように水流の攪乱で瞬時に繊維がほぐれるわけではなく、一度に2枚以上をまとめて流せばトラップの屈曲部で容易に引っかかります。原因が「水に溶けるもの」なのか、それとも「スマホやオムツなどの異物」なのかによって、打つべき一手は180度異なります。