ブラウン・セカール症候群の真相|左右で異なる麻痺の謎と最新治療

ブラウン・セカール症候群の真相|左右で異なる麻痺の謎と最新治療

ブラウン・セカール症候群の真相|左右で異なる麻痺の謎と最新治療にまつわる役立つ知識を分かりやすく発信ます。

人間の身体をコントロールする神経系において、これほど解剖学の整合性を如実に示す病態は他にありません。ブラウン・セカール症候群の本体は脊髄半側障害であり、文字通り胸髄や頸髄などの脊髄が右半分、あるいは左半分だけ損傷されることによって発症します。この病態を理解する鍵は、脳と末梢を結ぶ神経線維が「どこで左右反転(交差)しているか」という解剖学的ルールにあります。

まず運動指令を筋肉に伝える錐体路(外側皮質脊髄路)は、脳の延髄にある「錐体」と呼ばれる部位で左右が交差(錐体交叉)し、脊髄を下行します。したがって、胸髄の右側が障害された場合、すでに交差を終えた神経線維が遮断されるため、障害部位と同側に痙性麻痺(錐体路障害 症状)が現れます。腱反射の亢進やバビンスキー徴候の陽性化、足クローヌスといった上位運動ニューロン障害の徴候が同側の麻痺肢に明確に出現します。

一方、感覚系はルートが二手に分かれます。振動覚や位置覚を司る「後索・内側毛帯路」は、感覚神経が脊髄に入った後、同側の後索をそのまま上行し、延髄で交差します。そのため、深部感覚の障害も運動麻痺と同様に障害部と同側に生じます。これに対し、温度や痛みを感じる外側脊髄視床路は、脊髄に入った直後(通常1〜2髄節上)で中心部を横切り、反対側の前側索を上行して脳へ向かいます。つまり、右側の脊髄が破壊された時点で、すでに左側から交差して上行していた温痛覚の信号が寸断されるため、障害部と反対側の温痛覚が脱失するのです。

この「一方の感覚が保たれ、別種の感覚のみが特異的に脱落する」現象を神経学では解離性感覚障害と呼びます。同側運動麻痺と対側温痛覚障害という一見矛盾するような症状の組み合わせは、脊髄内の神経配線が織りなす構造的必然によって生じています。

ブラウンセカール症候群の引き金となる原因は多岐にわたります。古典的には刃物などによる刺創や銃創といった鋭的高エネルギー外傷が挙げられますが、現代の日常診療において遭遇頻度が高いのは以下の疾患です。

  • 頸椎症性脊髄症・頸椎椎間板ヘルニア:骨棘や脱出したヘルニア塊が脊髄の片側を限局的に圧迫する。
  • 脊髄腫瘍:神経鞘腫や髄膜腫など、脊髄硬膜内外に発生した良性腫瘍が偏心性に脊髄を圧迫する。
  • 血管障害・炎症性疾患:脊髄梗塞、硬膜動静脈瘻、多発性硬化症(MS)や視神経脊髄炎(NMOSD)に伴う限局性脊髄炎。
  • 鈍的外傷:交通事故や高所転落による脊椎骨折・脱臼に伴う不全損傷。
山崎 陸
著者

山崎 陸

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