なぜ同じ60分という単位が、ゲームをしているときは10分のように短く感じられ、苦手な勉強をしているときは数時間にも及ぶ苦痛に感じられるのでしょうか。認知心理学における時間知覚のメカニズムでは、「注意資源モデル(Attention Allocation Model)」によってこの現象が説明されます。
人間の脳が持っている情報処理のキャパシティ(注意資源)には上限があります。作業そのものに没頭しているとき、注意のほぼ100%が対象のタスクに向けられるため、「時間の経過」を監視する内部時計カウンターに注意が配分されません。結果として、脳内でカウントされるパルス数が極端に少なくなり、主観的な経過時間が大幅に圧縮されます。これが心の時間が短く感じる真相です。
一方、退屈なときや待ち合わせ相手を待っているときは、外界からの刺激が乏しいため、余った注意資源がすべて「いま何分経ったか」という時間確認に向けられます。1分ごとに時計を見直すような状況では、内部時計のパルスが過密に記録され、体感時間が途方もなく長く引き延ばされることになります。
さらに、大人が「1年があっという間に過ぎ去る」と痛感する体感時間が早く感じる理由として外せないのが、19世紀のフランスの哲学者ポール・ジャネが提唱したジャネーの法則です。この法則は「主観的な時間の長さは、生きてきた年齢の逆数に比例する」という仮説に基づいています。
例えば、5歳児にとっての1年は人生の5分の1(20%)に相当しますが、50歳の大手企業管理職にとっての1年は人生のわずか50分の1(2%)にすぎません。年齢を重ねるにつれて未知の経験や感情を揺さぶる刺激が激減し、記憶に刻まれる「出来事の密度」が低下するため、脳内で過去を振り返った際に時間が驚くほど短く圧縮されて感じられるのです。