なぜ「来る」だけ?カ行変格活用の謎と古文・現代語の違い徹底解剖

なぜ「来る」だけ?カ行変格活用の謎と古文・現代語の違い徹底解剖

なぜ「来る」だけ?カ行変格活用の謎と古文・現代語の違い徹底解剖の真相や最新動向に迫る! 専門的な視点でまとめました。

国語文法において、生徒から最も多く寄せられる疑問が動詞の活用でカ行変格活用がなぜ1語しかないのかという点だ。数万語に及ぶ日本語の動詞の中で、なぜ「来る」だけが孤立した変格活用として残ったのか。国立国語研究所の研究資料や日本語史の定説に基づくと、そこには明確な3つの言語学的根拠が存在する。

第1の理由は、言語学で「超高頻度語の不規則性保持」と呼ばれる法則だ。英語でも日常的に使われる「be動詞」や「go」「come」が激しい不規則変化を示すのと同様に、人間が太古から毎日のように発話する極めて身近な動詞は、文法の単純化・規則化の波に呑まれにくい。使用頻度の低い動詞は時代とともに規則的な四段活用や一段活用へと均一化(類推作用)されていったが、「来る」はあまりに口頭で使われる回数が多かったため、古代の不規則な発音が人々の記憶に強固に定着し続けたのだ。

第2の理由は、語幹と活用語尾が未分化である点にある。一般的な規則動詞である「書く(kak-u)」は、語幹「kak-」が不変であり、後ろに続く母音(a・i・u・e・o)だけが規則的に変化する。しかし「来る」は、語幹そのものが「こ(ko)」「き(ki)」「く(ku)」へと母音交替を起こす。語幹と語尾を切り離せない極めて原始的な言語構造を保っていることが、変格活用に分類される本質的な理由である。

第3の理由は、移動動詞としての特殊性だ。「行く」が規則的な四段活用(現代の五段活用)に収まったのに対し、「来る」は話者の心理的拠点・縄張りへ接近してくる方向性を示す原初的な身体感覚と結びついていた。言語学者の大野晋らが論じたように、日本列島の古代社会において「自己の領域に入り込む動き」を伝える「く」は、単なる記号を超えた発話の瞬発力を求められた結果、母音交替を伴う独特の短い音律がそのまま保存されたのである。

佐々木 一輝
著者

佐々木 一輝

Webメディアでの編集・執筆歴10年。読者の好奇心を刺激するストーリー作りを心がけています。