「肩の前のほうが痛くて腕が上がらない」「服の袖に腕を通すときや、背中のファスナーを上げるときに激痛が走る」——整形外科を受診する患者が訴えるこれらの症状の裏に、実は棘下筋の障害が潜んでいる事実は医療従事者以外にはあまり知られていません。
痛みの発生機序として最も頻度の高いものが、棘下筋のタイトネス(拘縮)に伴う上腕骨頭の前方偏位です。デスクワークで両肩が前方に巻き込まれた「巻き肩」や猫背が定着すると、棘下筋は常に引き伸ばされた状態で緊張を強いられます。この状態が慢性化すると筋肉の後方組織が硬縮し、上腕骨頭を後方から前上方へと押し出してしまうのです。その結果、肩関節の前方組織(烏口肩峰靭帯や上腕二頭筋長頭腱)に過剰な圧迫摩擦が生じ、患者は「肩の前側が痛い」と感じることになります。原因が後方の棘下筋にあるにもかかわらず、痛む部位が前側であるため、湿布を貼る位置や対症療法を誤るケースが後を絶ちません。
さらに見逃せないのが、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)におけるトリガーポイント(TP)の存在です。棘下筋の中央部や上部線維に形成された硬結(筋硬結)は、肩関節の深部だけでなく、上腕外側から前腕、場合によっては手の母指側にまで広範な「関連痛」を放散させます。自覚症状だけを頼りにすると「首のヘルニア」や「四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)」と誤認されやすい典型例といえます。
また、運動器の経年変化において、40代以降に急増する微小断裂や炎症も見過ごせません。加齢に伴う腱の血流低下に加え、過度な反復動作が加わることで、大結節付着部付近で腱性組織の摩耗が進行し、夜間痛(安静に横たわっているときにズキズキ痛む状態)を誘発する引き金となります。