物語の舞台は、ドイツ南部シュヴァルツヴァルトの片田舎にある小都市。主人公ハンス・ギーベンラートは、町で並ぶ者のない才能を認められた類まれな優等生でした。彼の日常は、周囲の大人たちによって勉強一色に塗り込められていきます。
父ヨゼフや教会の牧師、学校の教師たちは、ハンスをエリート養成機関であるマウルブロン神学校の国家試験に合格させることだけに執心します。釣りをはじめとする少年のささやかな楽しみはことごとく剥奪され、ハンスは見事に2番という抜群の成績で難関を突破しました。しかし、栄光の頂点こそが悲劇の序章でした。
神学校に入学したハンスを取り巻く力関係と人間模様は、彼の繊細な心を急速に蝕んでいきます。主な登場人物の構図を整理すると、以下の関係性が浮かび上がります。
【『車輪の下』主要登場人物の構図】
・ハンス・ギーベンラート:期待を一身に背負い、自己を圧殺し続けた末に神経衰弱へ陥る。
・ヨゼフ・ギーベンラート(父):息子の栄達を自らの見栄と重ね合わせる典型的な小市民。
・ヘルマン・ヘイルナー:神学校で出会う唯一無二の親友。天才肌の詩人で反逆児。ハンスの抑圧された内面を揺り動かすが、学校を脱走し姿を消す。
・校長・教官たち:規律と勤勉を盾に、生徒の個性を削り落として忠順な歯車に仕立て上げる教育体制の象徴。
・エンマ:失意のハンスが一時帰郷した際に出会う奔放な少女。ハンスの初恋を踏みにじり、無言で町を去る。
・靴職人フラウク:町の片隅からハンスの苦悩を唯一見抜き、大人たちの無理解を静かに糾弾する理解者。
親友ヘイルナーとの出会いによって自らの生に目覚めかけたハンスでしたが、ヘイルナーの脱走と退学を機に完全に孤立。学業不振と重いノイローゼに苛まれ、ついには「使い物にならない落第生」として故郷へ送り返されることになります。