2010年末をもって無期限の活動休止に入った宇多田ヒカル。彼女が選んだ「人間活動」の期間は、一人の人間としての生活を取り戻し、ロンドンでの結婚、そして2015年の第一子出産という人生の大きな節目を経験する時間でした。しかしその渦中、2013年8月に最愛の母であり希代の歌姫であった藤圭子の死という、計り知れない喪失に直面します。
沈黙を守っていた彼女のもとへ届いたのが、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の主題歌オファーでした。制作統括の落合将チーフプロデューサーは「激動の昭和を前向きに生きた女性たちの物語を包み込む、普遍的で力強い歌声」として宇多田ヒカルへ熱烈なラブコールを送りました。当時の特番インタビューにおいて彼女自身が語ったように、この依頼こそが「止まっていた音楽制作の時計の針を再び動かす決定的な契機」となったのです。
2016年4月4日のドラマ初回放送でオープニング曲として解禁された「花束を君に」は、同月15日に宇多田ヒカルの配信シングルとしてリリースされ、主要音楽配信サイトで瞬く間に軒並み1位を独占。日本中が待望した歌姫の帰還は、単なる商業的成功を超え、音楽史に残る劇的な復活劇として記録されました。