多臓器不全のため94歳でこの世を去ったマルチクリエイター、やなせたかし氏。彼の訃報は新聞の1面を飾り、ニュース番組でも連日その功績が称えられた。しかし、彼が絵本作家や才能あふれる漫画家として大きな脚光を浴びたのは、人生の半ばを過ぎてからのことだ。
若き日のやなせ氏は、戦争の泥沼の中で弟を戦死で失うという苛烈な体験をした。戦後はグラフィックデザイナーや放送作家など多彩な才能を発揮しながらも、「自分は何者なのか」という問いを抱え続けた。ヒット作に恵まれない焦燥感を抱えつつ、彼が50代半ばにして生み出したのが、自らの顔をちぎって分け与える異色のヒーローだった。遅咲きと言われた彼の生涯は、挫折と葛藤の果てに掴み取った執念の結晶だった。