現在の柔和な姿の背景には、小説家としての熾烈な下積み時代と、長年続けてきた社会貢献活動の積み重ねがある。40歳で直木賞を受賞した『黄色い髪』は、社会の底辺で喘ぐ人間たちの情念を圧倒的なリアリズムで描き出した傑作だった。文学界で揺るぎない評価を確立した彼は、やがて子供たちの情操教育へと強い情熱を傾けるようになる。
1999年に立ち上げた「よい子に読み聞かせ隊」は、彼自身が全国の保育園や幼稚園、図書館をボランティアで巡回し、絵本の読み聞かせを行う活動だ。四半世紀にわたり全国の子供たちに物語の楽しさを直接届け続けた経験が、現在の「若者や子供に対する深い慈愛」の根底に流れている。彼の言葉に宿る温もりは、長年子供たちの目を見つめ、対話を重ねてきた現場での実績から滲み出ているのだ。