店頭を訪れた人がまず息を呑むのは、値札に記載された価格設定です。一般的な鮮魚店や百貨店では1枚あたり300〜500円ほどで並ぶ上質な真アジの干物が、数枚入ってワンコイン前後、特売日や訳あり品であれば1枚あたり数十円相当になることすら珍しくありません。「山安の干物はなぜ安いのか」という問いに対し、流通関係者への取材や公開情報からは3つの明確な理由が浮かび上がってきます。
第一の理由は、国内外の漁場からのダイレクトな一括大量買い付けです。小田原近海にとどまらず、長崎県やオランダなど、世界中から脂の乗った旬の魚を最適な時期に船団単位・コンテナ単位で直接仕入れることで、中間マージンを極限まで排除しています。
第二の理由が、オートメーション化された近代自社工場によるコスト削減です。富士山麓の恵まれた冷水環境と徹底した衛生管理のもと、手作業で行うべき「開き」の技術と、機械によるスピーディーな加工・乾燥プロセスを高度に融合させ、大量生産によるスケールメリットを実現しています。
そして第三の、そして最大の理由が、ファンから絶大な支持を集める「キズパック」に代表される訳ありアウトレット品の有効活用です。製造ラインで皮が少し破れてしまったり、尾びれが欠けてしまったり、重量が既定サイズからわずかに外れただけの魚は、味や鮮度には一切問題がありません。これらを「キズパック」として工場直売所や特売コーナーに惜しみなく投入することで、フードロスをゼロに近づけつつ、驚異的な低価格を実現しています。消費者にとっては「自宅で食べるなら見た目は関係ない」という合理的な需要と完璧に合致しているのです。