「べっぴん」という響きを聞くと、生粋の上方言葉(関西弁)を連想する方が大半かもしれません。しかし、言語学者や近世風俗史の専門資料をたどると、その発祥は江戸時代の東海道や江戸市中にまで遡ります。漢字で表記すると「別品」または「別嬪」と書きますが、原点は明確に「品(物品)」の字にありました。
江戸中期の記録によると、「別品」とは文字通り「他とは格別に異なる優れた品物」「特選の逸品」を意味する商業用語でした。特に広く知られる契機となったのが、東海道駿河国(現在の静岡県)の鰻(うなぎ)屋や割烹料理店が掲げた「すっぽん料理・別品」という宣伝看板です。当時の旅情を伝える洒落本や狂歌にも「格別の味わい」「並の料理とは違う別誂え」という意味合いで「別品」という語句が頻繁に登場しています。
では、なぜ料理や道具を指していた言葉が、女性の容姿を褒め称える表現へと転じたのでしょうか。文化文政期(1804〜1830年)の江戸市中では、洒落や言葉遊びの文化が爛熟していました。評判の看板娘や花街の芸妓に対して「あちらの娘さんは、並の器量とは格段に違う極上の別品だ」と、優れた名品になぞらえて賛美する隠語的スラングが流行したのです。やがて明治期に入ると、女性を指す漢字として女性の美しさを意味する「嬪(ひん・みめよい女性)」の字が当てられ、「別嬪」という表記が一般化していきました。