多くの妊婦が最も気に掛けるのが「エコーで異常が見つかる確率はどれくらいなのか」という点です。国内外の大規模な臨床データによると、一般的な妊婦健診の2Dエコーにおけるダウン症の検出率はおよそ50%〜60%程度に留まります。専門的な教育を受けた超音波専門医が精密機器を用いて行う胎児ドックでも、エコー単独での検出限界は75%〜80%前後と報告されています。
裏を返せば、ダウン症を持つ赤ちゃんの約20%〜40%は、出生前のエコー検査で目立った異常が一切観察されないという客観的事実が存在します。「エコー検査で見落とされた」と悲嘆に暮れる親の手記が散見されますが、そこには医療過誤とは異なる複合的な要因が絡み合っています。
見落としが生じる主たる医学的理由は以下の3点に集約されます。
第一に、解剖学的異常が軽微、または存在しないケースがある点です。ダウン症であっても重い心奇形を持たず、骨の長さも標準範囲内に収まり、NTの肥厚が早期に自然消失する胎児は決して珍しくありません。目に見える形態変化がなければ、いかに高性能な超音波機器を用いても画像から捉えることは不可能です。
第二に、母体および胎児の物理的条件による描出限界です。胎児が子宮の奥深くを向いている、羊水量が少なくて超音波が通りにくい、胎盤が前壁に位置して視野を遮る、あるいは母体の皮下脂肪の厚みによって画像解像度が著しく低下するなど、物理的な観察限界が日常的に発生します。
第三に、通常健診における検査目的の差異です。一般的な産婦人科での妊婦健診は、限られた診察時間内で胎児心拍の有無、羊水量、推定体重、胎位などを確認し「母子の安全な妊娠継続」を管理することを主眼としています。微小な染色体異常マーカーを一箇所ずつ精査する検査とは設計思想そのものが異なっています。