なぜ、吉岡里帆さんのどんぎつねはこれほどまでに日本人の記憶に深く刻まれ、交代後も人々の間で語り継がれているのでしょうか。広告マーケティングおよびメディア心理学の視点から分析すると、明確な構造的要因が存在します。
認知心理学において、メディア越しの人物に対してあたかも身近な知人や恋人であるかのような親近感を抱く現象を「パラソーシャル相互作用(疑似親密関係)」と呼びます。星野源さんの視点(POV=一人称視点)を多用したカメラワークや、部屋着姿で「私のこと、好きなんですか?」と問いかける演出は、テレビの前の視聴者自身がどんぎつねと対話しているかのような錯覚を生み出しました。この強固な心理的結びつきが、吉岡里帆という女優個人と「どん兵衛」というプロダクトを不可分なレベルで同化させたのです。
しかし、この強烈な一体化こそが、ブランドにとっては「両刃の剣」となります。キャラクターへの愛着が強すぎると、以下のようなメリットとデメリットが表裏一体で生じることになります。
プロのマーケティング的結論として、日清食品が吉岡里帆さんとの契約を延長し続けず、あえて一度終わらせたのは、「キャラクターの死神化(ブランドがタレントに食われる現象)を防ぐための冷徹で合理的な経営判断」であったと言えます。偉大すぎる成功体験を手放し、スクラップ&ビルドを厭わない姿勢こそが、半世紀にわたりトップシェアを維持し続けるどん兵衛の強さの源泉です。