金髪アスリートとして青春を過ごした男が、なぜあそこまで時代錯誤とも言える極端なヘアスタイルに行き着いたのか。その核心にあるのがオードリー春日七三分けの理由です。このスタイルは春日自身の閃きではなく、相方・若林正恭の綿密な計算とプロデュースによって生み出されました。
前身コンビ「ナイスミドル」時代、二人はどこにでもいる普通の若手芸人として埋没し、長い低迷期を経験しました。当時を振り返る自著やロングインタビューにおいて若林は、客席から見て「一瞬でヤバい奴だと分かる記号」の必要性を痛感したと語っています。そこで目をつけたのが、1980年代のアイドルや往年の大スターを彷彿とさせるテクノカットと、きっちり固められた七三分けでした。
社会心理学や認知科学の観点から分析すると、この戦略は「認知的節約(Cognitive Miser)」のメカニズムを完璧に突いています。視聴者はテレビ画面に映る無数のタレントを一瞬で識別するために、分かりやすい視覚的手がかりを求めます。「金髪イケメン風の青年」というありふれた属性を捨て去り、「常に胸を張り、ピンクのベストを着て、七三に分けた頭をテカらせている男」という徹底した記号化を施すことで、視聴者の脳内に強烈なアンカーを打ち込むことに成功したのです。
春日本人も、最初は「こんな髪型で街を歩くのは恥ずかしい」という葛藤を抱えていたものの、劇場のウケが劇的に変わったことで腹を括ったと公言しています。かつての金髪時代に培ったアスリート特有の堂々たる体躯があったからこそ、奇異な七三分けを背負っても単なるギャグに終わらず、唯一無二の「春日俊彰」というアイコンへと昇華させることができました。