長年にわたり昭和・平成・令和の芸能界動向を取材してきたジャーナリズムの視点から、今回の事態が突きつける構造的病理を考察します。
心理学および社会学において、他者と自己を適切に分かつ認識を「心理的バウンダリー(境界線)」と呼びます。大統領夫人として一国の頂点を極め、召使や従者に囲まれた生活を長く送ってきたデヴィ夫人にとって、自身の感情をコントロールする枠組みや、雇用関係にある他者への尊厳の配慮というバウンダリーが、無意識のうちに希薄化していた可能性は否めません。
昭和の芸能界において、強烈なカリスマによる暴力やパワハラは「熱血指導」「芸の肥やし」として不可視化されてきました。しかし、令和の社会が求めているのは、どれほどの実績があろうとも「暴力とハラスメントの完全な排除」です。感情の昂ぶりを暴力で処理してしまう衝動性、すなわちアンガーマネジメントの不全は、晩節を汚す最大のトリガーとなります。
この問題から私たちが学ぶべき人間関係の教訓は明白です。「圧倒的な立場や年齢を盾に、暴力や威圧で物事を解決しようとする人物とは、どれほど魅力的であっても心理的・物理的距離を保つべきである」ということ。そして組織においては、どれほど偉大な権力者であっても、ブレーキをかけられる客観的な監査体制を維持しなければ、最終的に組織ごと破滅へと向かうという教訓を如実に物語っています。