なぜ現場の医師は、ここまで頑なに厳封を求めるのか。そこには医療現場ならではの緊迫した力学と、患者には見えないリスク管理が存在する。
医師が診療情報提供書を作成する際、病名や検査数値だけでなく、患者の性格特性、服薬へのアドヒアランス(指示通りの服用意欲)、あるいは家族関係の機微といった主観的・臨床的観察所見を書き添えることがある。これらは受け入れ側の医師が適切な治療方針を立てる上で欠かせない情報だが、患者本人が読めば無用な反発や精神的ショックを招きかねない。医師同士が本音で臨床判断を共有するためには、密閉された環境が不可欠なのだ。
さらに深刻なのが医療安全の観点だ。日本医療機能評価機構などに報告される医療事故やトラブルの分析においても、申し送り事項の齟齬や改変は重大な医療過失を引き起こす引き金になり得ると指摘されている。検査データの一部が抜け落ちたり、患者自身が都合の悪い既往歴の記載を抜き取ったりする改ざんを防ぐため、割印による封かんは医療事故を未然に防ぐ生命線として機能している。