ネット上の掲示板やSNSでは、定期的に「山口百恵が借金返済のために一夜限りのディナーショーで復帰するのではないか」「NHK紅白歌合戦に1曲限定でサプライズ出演し、出演料は数億円規模になる」といった根拠のない憶測が飛び交います。しかし、これらの噂は彼女の置かれた実情と精神的バックボーンを完全に無視した誤解に過ぎません。
彼女が表舞台への未練を完全に断ち切っている理由は、1980年に出版した自叙伝『蒼い時』(集英社)の中にすべて書き遺されています。著書の中で彼女は、過密スケジュールに追われた現役時代の苦悩や、複雑な家庭環境、そして実の父親との深刻な確執と金銭トラブルを生々しく告白しました。認知をめぐる争いや、金銭を執拗に要求し続けた実父との対峙は、若き日の百恵の心に深い傷を残しました。
彼女にとって芸能界とは、家族を経済的に守るために命を削って戦った場であり、同時に人間関係の醜いエゴイズムに直面させられた場でもありました。自らの手で築く新しい家庭と精神の平穏を守るため、彼女は引退時に「二度と戻らない」という不可逆の決断を下したのです。
経済的にも前述の通り、自身の印税収入と夫の堅実な稼ぎによって完全に自立しており、大金に釣られて過去の決意を覆す動機は微塵も存在しません。「巨額オファーを断り続けている」のではなく、彼女にとっては「家庭と静寂を維持することの価値が、どれほど積まれた金銭よりも尊い」という一貫した価値観が働いているだけなのです。