臨床の最前線を取材すると、最も深刻なのは「下血=切れ痔やいぼ痔の再発」と勝手に決めつけ、受診を先延ばしにしてしまうケースです。救急救命センターの医師は次のように証言します。
「救急搬送された50代男性の手記には『数日前から便器が赤かったが、元々いぼ痔持ちだったので市販の注入軟膏で様子を見ていた。突然トイレで立ち上がれなくなり、意識が遠のいた』と記されていました。内視鏡で確認したところ、S状結腸に生じた深い潰瘍からの動脈性出血であり、ヘモグロビン値は通常の半分以下の5.8g/dLまで墜落。まさに間一髪の救命劇でした」
ソーシャルメディアや医療相談コミュニティ(知恵袋・掲示板等)の投稿を分析しても、「黒い便が出たけれどお腹が痛くないから仕事に行った」「翌朝に倒れて救急搬送された」といった生々しい告白が散見されます。消化管出血は、痛みの有無と危険度が必ずしも比例しません。むしろ、「痛みがないのに便の色が明らかにおかしい」状態こそ、静脈瘤や憩室から大量の血液が静かに漏れ出しているシグナルであるケースが多いのです。