物語の中盤から終盤にかけて、読者を惹きつけてやまないのが「なぜ御崎は人間界に身を置き、小説を書き続けるのか」という実存的な謎です。単なる吸血鬼の道楽ではなく、そこには数百年という悠久の時間を生きる人外ならではの深い業と哀愁が隠されていました。
クライマックスで明かされる結末の真相において決定打となるのは、かつて御崎が心を通わせた「ある人間の存在」と、その死によって刻まれたトラウマです。不老不死である吸血鬼にとって、人間の命は瞬きほどの儚さしかありません。どれほど愛おしく思っても、人間は老い、病み、自らより先に消え去っていく。御崎が言葉を紡ぎ、活字として物語を残し続ける真の動機は、かつて存在した人間の記憶と感情を、風化させないための「永遠の墓標」だったのです。
作中で発生する連続怪奇事件の首謀者は、人間との共存を拒絶し、人外による支配を目論む過激派でした。瀬名の命が危機に瀕した極限状態において、御崎は吸血鬼としての本能と禁忌を解放。瀬名を救い出す代償として、自らの不老不死の宿命と向き合う決断を下します。
事件解決後、瀬名は御崎の「担当編集」として、彼が生き続ける限りその物語を受け取り続けることを誓います。恋愛感情という安易な枠組みに回収されず、生者と不死者が互いの境界線を尊重しながら並走するラストシーンは、多くのミステリファンに深い余韻を残しました。