日常でできる「心臓にいいこと」を意識するあまり、かえって心筋に過度な負荷を強いているケースが後を絶ちません。循環器専門医が外来診療の現場で最も懸念を示しているのが、過激な健康法への盲信です。特にSNSや一部のメディアで拡散された極端なルーティンを取り入れた結果、胸痛を訴えて救急搬送される患者が2024年から2026年にかけて急増しています。
その筆頭が、早朝起床直後の高強度ランニングです。睡眠中は発汗によって血液中の水分が失われ、起床直後の生体リズムは交感神経が急激に優位になります。血圧が急上昇し、血小板の凝集能(血液の固まりやすさ)が高まる午前6時から9時の時間帯に十分な水分補給もないまま息が上がるような運動を行う行為は、専門医から見れば「自ら血栓を作りにいくようなもの」と言っても過言ではありません。
さらに近年定着したサウナブームにおける「極端な水風呂」も重大なリスクをはらんでいます。高温サウナからの急激な冷水浴は、末梢血管を一瞬で収縮させ、収縮期血圧を30〜50mmHg以上跳ね上げます。この急峻な血圧変動は、動脈硬化が進行した冠動脈のプラーク(血管のコブ)を破綻させ、心筋梗塞を誘発する引き金になります。健康を目的とした行動が命を脅かすパラドックスを避けるには、身体の生理的メカニズムを正しく把握することが前提となります。