刑法がわざわざ懲役と禁錮を区別していた根底には、19世紀ヨーロッパ近代刑法に端を発する「非破廉恥罪(ひはれんちざい)」と「破廉恥罪(はれんちざい)」の概念が存在します。
破廉恥罪とは、殺人、強盗、窃盗、詐欺などのように、個人の利欲や悪意、反社会的な動機に基づいて行われる道義的非難の極めて高い犯罪です。これらに対しては強制労働を科す懲役が妥当とされました。一方で、政治的信条に基づく反乱(内乱罪など)や、悪意のない不注意による事故(過失犯)は非破廉恥罪とみなされ、受刑者の名誉を一定程度尊重して労働を強制しない禁錮刑が設けられたのです。
実務上、禁錮刑が科される典型的なケースは以下の通りでした。
- 自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷罪など):重大な交通事故により歩行者や同乗者を死傷させた事案。悪質な危険運転(酒酔い・大幅な速度超過等)は懲役刑が科されますが、前方不注意やブレーキ操作の遅れといった過失による事故では禁錮刑が選択されるケースが多く見られました。
- 業務上過失致死傷罪:工場や建設現場での安全管理義務違反、医療過誤、船舶や鉄道の事故など、職務上の過失により死傷者を出した事案。
- 刑法上の国乱犯罪:内乱罪(刑法第77条)や内乱予備罪など、国家体制に対する政治的信念犯。
法務省の司法統計によると、過失運転致死傷罪で禁錮判決を受けるケースでは、初犯であり遺族への謝罪や任意保険による示談が進んでいる場合、約85%から90%の割合で執行猶予が付されていました。実刑となって実際に刑務所へ収容されるのは、重大な過失が重なったケースや無免許・救護義務違反(ひき逃げ)が絡む事案などに限られていたのが実情です。