「寺輪さんがスタジオに入ると、映像の空気が一変する」と、長年タッグを組んできたある映画プロデューサーは語る。制作現場における音響効果の役割は、単に絵に合わせて音を当てる作業ではない。雨の粒が地面を叩く強さ、登場人物が抱く焦燥感を代弁する乾いた足音。寺輪が現場で求めるのは、台本に書かれていない心理描写の音像化だ。
ある現場では、わずか数秒の足音を収録するために何十種類もの靴と床材を用意し、深夜まで微調整が続けられたという。過剰な劇伴で観客の感情を誘導する安易な手法を嫌い、あえて「音を引く」ことで際立たせる静寂の緊張感。こうした一切の妥協を排したストイックな姿勢こそが、名監督たちから絶大な信頼を寄せられる理由であり、数多くの傑作を生み出す原動力となってきた。