視力検査の現場で「アルファベットのCの切れ目を答えてください」と案内されることが多いため、英語の頭文字や文字の一種だと誤解されがちですが、ランドルト環の由来は文字ではありません。考案したのは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてフランス・パリを中心に活躍したスイス出身の眼科医エドマンド・ランドルト(Edmund Landolt, 1846–1926)です。
彼が1888年に提唱したこの記号は、文字ではなく「円環の一部に切れ目を入れた幾何学模様(スプリットリング)」として設計されました。当時のヨーロッパでは、オランダの眼科医ハーマン・スネルンが開発したアルファベットを用いた「スネルン視力表」が普及していましたが、重大な欠陥を抱えていました。アルファベットを使用すると、識字率が低い層や非英語圏の人々が正確に検査を受けられないだけでなく、「A」や「L」など文字ごとの形状によって判読の難易度に大きなバラつきが生じていたのです。
そこでエドマンド・ランドルトは、言語や教育水準、文化圏の壁を完全に排除し、純粋に「眼の空間分解能(2つの点を分離して認識できる限界)」だけを客観的に測定できる図形として、真円の均一な輪から一定の比率で隙間を切り取ったマークを設計しました。この画期的な公平性と精度の高さが評価され、1909年の第11回国際眼科学会(ナポリ)において、視力検査の国際標準指標(国際基準)として正式に採択されたという歴史的背景があります。