三島由紀夫と美輪明宏の真実|黒蜥蜴と深紅の薔薇に秘めた魂の劇

三島由紀夫と美輪明宏の真実|黒蜥蜴と深紅の薔薇に秘めた魂の劇

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三島由紀夫が美輪明宏というミューズを得て到達した芸術的頂点が、江戸川乱歩原作、三島脚色による戯曲『黒蜥蜴』です。三島はこの名作探偵小説を華麗かつ退廃的な大人の悲劇へと昇華させましたが、長年にわたり上演許可を出さず、自らの机の引き出しに封印していました。「この難役を完璧に体現できる役者が日本に存在しない」と頑なに信じていたためです。

転機が訪れたのは1968年でした。三島は美輪明宏に対し、「緑色の血が流れているような、この世ならぬ美と悪徳を演じられるのは君しかいない」と熱烈に出演を口説き落とします。舞台上で美輪が演じた女盗賊・黒蜥蜴は、妖艶さと冷徹さ、そして明智小五郎への狂おしい純愛を湛え、演劇界に空前絶後のセンセーションを巻き起こしました。三島は劇場に通い詰め、客席から「美しい! 天上界の美だ」と感涙を流して喝采を送ったと伝えられています。

さらに同年に公開された深作欣二監督による映画版『黒蜥蜴』では、後世に語り継がれる伝説の一幕が記録されます。三島由紀夫本人が、黒蜥蜴の妖しいコレクションである「生人形(毒殺され剥製にされた美しい青年)」役としてカメオ出演を果たしたのです。作中、銀粉を塗られて微動だにしない三島に対し、美輪演じる黒蜥蜴が近づき、冷たい唇を重ねる妖美なキスシーンが撮影されました。

当代のトップ文豪が、自らの戯曲の映画化作品において一言も台詞を発しない標本として出演し、主演俳優と唇を交わすという前代未聞のパフォーマンス。それは、三島が抱き続けた「完璧な肉体美を標本として永遠に留めたい」という死の願望と、美輪への絶対的な耽溺が白日のもとに晒された、昭和映像史における奇跡的な瞬間でした。

高橋 健太
著者

高橋 健太

Webメディアでの編集・執筆歴10年。読者の好奇心を刺激するストーリー作りを心がけています。