ジブリファンのみならず、多くの人々が帝と聞いて真っ先に思い浮かべるのが「鋭角すぎるアゴのライン」です。ネット上では「アゴの角度は何十度あるのか」「三角定規で測れそう」と検証画像が作られるほど盛り上がりを見せていますが、この作画表現には高畑勲監督による深い演出意図が隠されています。
当時の制作陣へのインタビューや絵コンテを紐解くと、この特徴的な輪郭は決してウケを狙ったデフォルメではありません。平安時代の絵巻物(『源氏物語絵巻』などに代表される引目鉤鼻の貴族描写)をベースにしながらも、「最高権力者の持つ異様さや俗物性、鼻持ちならなさ」をアニメーションとして視覚化するための必然的なフォルムでした。
美男として描かれつつも、どこか不気味で近寄りがたいアンバランスさを同居させることで、かぐや姫が抱く「この世界(俗世)への強烈な違和感」を観客に直感的に追体験させています。極端な輪郭線は、観客の目を奪うキャッチーさであると同時に、権力構造の歪みを一瞬で伝える計算し尽くされたリアリズムの賜物です。