近年、インターネット上のオカルトコミュニティや都市伝説ファンの間で、「雀のお宿の正体は黄泉の国(死後の世界)である」という解釈が急速に拡散しました。この説は単なるネットのデマなのか、それとも学術的な裏付けが存在するのでしょうか。民俗学や古典文学の構造から検証すると、あながち荒唐無稽な作り話とは言い切れない興味深い暗合が見えてきます。
古事記や日本神話において、異界(死者の国・根の国)を訪れた者が現世に戻れなくなる決定的な契機として「黄泉竈食ひ(よもつへぐい)」という概念が存在します。異界の火で調理された食べ物を口にすると、その世界の住人になってしまうという呪術的法則です。『舌切り雀』の物語においても、おじいさんは雀のお宿で出された豪華な御馳走酒肴を次々と口にし、日を忘れて歌い踊る歓楽に浸ります。また、宿の所在が「鬱蒼とした竹やぶの奥深く」という現世と隔絶された異界のトポス(場所)に設定されている点も、古代の他界観と酷似しています。
しかし、ネット上の言説が「おじいさんは実は死んでいた」「雀たちは死神の隠喩である」と短絡的なホラーへ回収しがちな点には、明確な誤解があります。民俗学的な本質は「死」そのものではなく、日常の現実世界と、神仏や霊魂が宿る「非日常の異界」との往還にあります。おじいさんは雀という異類の恩寵を受け、無傷で現世へと帰還した「異界往還の成功者」であり、境界を侵犯して欲望を剥き出しにしたおばあさんは「異界の禁忌に触れて裁かれた侵入者」だったのです。