インターネット上の掲示板やSNSでは、「今年の豊水は酸っぱくて外れだった」「豊水は当たり外れが激しい」というネガティブな書き込みが散見されます。しかし、青果流通の構造を追跡すると、これは品種本来の欠陥ではなく、流通時期と「追熟への誤解」が生んだ悲劇であることが判明します。
第一の盲点は、梨は収穫後に追熟しない果物であるという事実です。メロンやバナナのように、室温に置いておけば糖度が増すことは科学的にあり得ません。梨は樹上で完熟した瞬間が糖度のピークであり、もぎ取られた瞬間から果肉中の糖は呼吸代謝によって消費され、徐々に減少していきます。お盆明けの早出し競争において、一部の未熟な豊水が流通に乗ってしまった場合、酸味だけが際立って「酸っぱいハズレ梨」として消費者の口に届いてしまうのです。
第二の誤解は、「豊水の内部褐変(みつ症)」に対する過剰な忌避感です。豊水は成熟が進むと、果肉の中心付近が水浸状に透き通る現象(水腐れ・みつ症)が起きやすい性質を持ちます。重度のものは品質低下ですが、わずかに果肉が半透明になっている程度であれば、糖度が極めて高く熟成が進んだサインでもあります。現場の生産者手記や産地指導員のリポートでも、「褐変を恐れて早もぎされた青い豊水よりも、完熟して果汁が溢れる一歩手前の個体こそが豊水本来の滋味を宿している」と強調されています。