なぜ、激しい濁流の中で幼い命が助かることができたのか。津波工学の権威である東北大学の今村文彦教授は、巨大津波の波形と浮力のメカニズムを解説する。「津波の第一波が家屋を破壊する際、密閉構造の家具や断熱材が浮体となり、偶然にも赤ちゃんを乗せたまま水面を流された可能性がある」。強烈な流速の中でも、特定の流木群や局所的な渦の滞留エリアが「エアポケット」のような役割を果たしたという解析だ。
気象庁が蓄積した巨大地震の潮位データや最新の流体シミュレーションによれば、沿岸部を襲った波の引き潮速度は時速数十キロに達していた。浸水域における微細な流速の違いが生死の境界線を分けた事実は、今後の沿岸防災計画にとっても極めて貴重な科学的知見となっている。