ファンの間で今なお熱く議論されるのが、松山千春『旅立ち』の歌詞の意味です。表面上は、愛し合いながらも別れを選ぶ男女の哀愁を描いた失恋ソングに見えますが、その深層には極めて高潔な人生観が織り込まれています。
特に象徴的なのが、「私の瞳に 映るあなたの 疲れた姿は 見たくないから」というフレーズです。相手を束縛せず、自らの存在が相手の重荷になることを避けるために自ら身を引くという選択は、心理学における「健全な心理的境界線(バウンダリー)」の確立を想起させます。
昭和歌謡や当時のフォークソングに多く見られた「未練や情念に溺れる関係性(共依存的な愛)」とは一線を画し、足寄の極寒の自然と貧しさを知る千春だからこそ書けた「自立のための別離」がここにあります。厳しい北の風に向かって一人歩き出す覚悟を決める主人公の姿勢は、歌手として未知の世界へ踏み出す当時の青年・松山千春自身の決意表明でもありました。