1980年代、空冷2ストローク全盛のライバル陣営に対し、本田技研工業が満を持して送り出したのがホンダ・VT250Fだった。水冷90度V型2気筒エンジンを搭載し、最高出力35馬力を叩き出したこのマシンは、レーサーレプリカの先駆けとして爆発的な大ヒットを記録する。しかし、その高いポテンシャルに目をつけたのはサーキットを目指す走り屋だけではなかった。
車検が不要で維持費が安く、しかも400ccクラスに肉薄する加速性能を持つVT250Fは、当時の若者カルチャーの真ん中にいた暴走族の少年たちにとって格好のベース車両となった。ロケットカウルを極限まで高く掲げる通称「ブチアゲ」スタイルや、色鮮やかな日章旗カラー、自作のメガホンマフラー。サーキット用に開発された最新メカニズムが、ストリートの自由な発想によって全く別の生命体を宿していったのだ。