福砂屋を語る上で欠かせない象徴が、カステラの底面に敷かれた粗目糖の小気味よい食感です。「どうやって底に隙間なく均一に敷き詰めているのか」と疑問を持つ消費者は少なくありませんが、実はここに、福砂屋のカステラにおけるザラメの秘密が隠されています。
公式の記録や職人の証言が示す通り、福砂屋では焼き型の底にザラメを撒いているわけではありません。生地を仕込む際、ザラメ糖をすり鉢状のボウルに入れて卵白や卵黄とともに激しく手で撹拌します。その際、職人は生地全体に均一な甘みを馴染ませながらも、一部のザラメの結晶をあえて溶かしきらずに残し、攪拌の勢いと比重によって自然に底へと沈降させているのです。
機械ミキサーで高速攪拌を行えば、ザラメは熱と遠心力で完全に溶け去ってしまいます。かといって手作業でも撹拌が足りなければ、生地のキメが粗くなりカステラ特有のふんわり感が失われます。キメ細やかな泡立ちを極限まで高めつつ、ザラメの粒を絶妙な加減で沈み込ませる技術は、長年の勘を研ぎ澄ました職人にしか再現できません。あの底に残るシャリッとした食感は、職人が丹精込めて手わざを施した「無垢な職人技の痕跡」に他ならないのです。