0-0のまま突入した延長戦、オランダのジョン・ハイティンハが退場となり迎えた延長後半116分、運命の瞬間が訪れます。ヘスス・ナバスの自陣からのドリブル突破を起点に、セスク・ファブレガスがペナルティエリア右へラストパスを供給。バウンドしたボールを完璧なトラップで収めたアンドレス・イニエスタが、右足のハーフボレーでゴール左隅を撃ち抜きました。
ゴールネットが揺れた瞬間、イニエスタはユニフォームを脱ぎ捨ててコーナーフラッグへと疾走しました。アンダーシャツに手書きのマジックで記されていたのは、「DANI JARQUE SIEMPRE CON NOSOTROS(ダニ・ハルケはいつも僕たちと共に)」という熱いメッセージでした。このイニエスタ決勝ゴール真相には、ピッチ外での深い苦悩と再生のドラマが隠されていました。
自著『夢を生きる』や当時のドキュメンタリーでイニエスタ本人が吐露した通り、彼は大会前年の2009年夏、親友でありRCDエスパニョールの主将だったダニ・ハルケを急性心不全(享年26)で突如失い、重度のうつ状態に陥っていました。「ボールを蹴る気力すら湧かず、暗闇の中にいた」と語るほど精神的に追い詰められ、南アフリカ遠征中も負傷への恐怖と戦い続けていたのです。そんな彼を支え続けたのが代表のチームメイトたちであり、イニエスタは世界中の何十億人が見守るワールドカップ決勝という究極の舞台で、亡き友との絆を証明してみせました。イエローカードを受けることを承知の上で捧げられたあのセレブレーションは、スポーツの枠を超えた人間讃歌として今も世界中で称賛されています。