SNSやネット掲示板(知恵袋・5ch等)を覗くと、慣習法に対して極端な誤解やデマが散見されます。最も典型的なものが「地元で何十年も続いてきたルールなら、どんな無茶苦茶なしきたりでも慣習法として警察や裁判所を拘束する」という言説です。
法律実務において、この認識は完全に誤りです。裁判所が慣習を「法」として公認するためには、前述の「法の適用に関する通則法3条」および「民法90条」が定める公序良俗基準(公の秩序又は善良の風俗)をクリアしなければなりません。
過去、地方共同体で起きたいくつもの陰湿な「村八分事件」において、加害者側の住民らは「先祖代々の自治ルールであり慣習だ」と主張しました。しかし裁判所は、葬儀や火災を除く一切の社会的交際を拒否する行為は憲法が保障する人格権の侵害であり、民法90条違反および不法行為(民法709条)を構成するとして、慣習の法的効力を一蹴し、多額の損害賠償を命じています。
さらに見過ごせないのが、女性の権利を巡る最高裁判例の転換です。かつて多くの農村で、入会権の行使主体を「世帯主たる成年男性」に限定し、嫁いだ女性や未婚女性を排除する慣習が存在しました。これに対し最高裁第三小法廷は平成18年(2006年)3月17日判決において、男女平等を定めた憲法14条や民法90条の精神に照らし、「入会権の享有資格を男性に限定する慣行は、不合理な性差別であり公序良俗に反して無効である」との歴史的判断を下しています。「昔から続いている=法律として通る」という等式は、司法の現場では通用しません。