「75歳を過ぎたら貼らないと警察に捕まるのでは?」と誤解している方が今なお多い背景には、平成期に行われた法改正と、それに伴う大混乱の歴史が存在します。
時計の針を巻き戻すと、1997年(平成9年)に当時の警察庁主導で高齢運転者標識が新設された当初は、75歳以上を対象とした努力義務としてスタートしました。転機となったのは2008年(平成20年)6月の道路交通法改正です。政府は高齢ドライバーによる重大事故の抑止を旗印に、75歳以上のドライバーに対して標識の表示を「完全義務化」し、違反した場合には「反則金4,000円・違反点数1点」を科す罰則を導入しました。
ところが、施行直後から全国の高齢者やシニア団体、国会から凄まじい逆風が吹き荒れます。当時のワイドショーや新聞投書欄、地方自治体の議会では以下のような痛烈な批判が連日飛び交いました。
- 「まだ元気に無事故無違反で運転しているのに、年齢だけで枯葉のような烙印を押されるのは屈辱的だ」
- 「長年ゴールド免許を維持してきた誇りを傷つけられた」
- 「後期高齢者医療制度の導入時期と重なり、国からシニア層が一括して厄介者扱いされているように感じる」
警察庁や関係省庁の想定をはるかに超える世論の反発と政治的圧力に直面した政府は、施行からわずか1年足らずで方針転換を余儀なくされます。2009年4月には「当分の間、罰則を適用しない」とする異例の凍結措置を発表。さらにその後の道路交通法再改正により、罰則付きの義務化規定そのものが正式に削除され、現在に至る努力義務への回帰という決着を迎えました。