『さよなら』の哀愁を決定づけているのは、小田和正の類まれなハイトーンボイスだけではありません。コード進行と緻密なアンサンブルの構築美にその秘密があります。
楽曲は、哀感を帯びたFm(ヘ短調)やAm周辺のマイナーキーを軸としながら、サビに向かって感情が解き放たれるようなメジャーコードへの展開や、ドミナント・モーションによる強い推進力を備えています。特にAメロからBメロへの推移で使われる経過音(クリシェ進行)やテンションノートが、歌詞にある「やりきれない心の移ろい」を音そのもので表現しています。
また、ギター楽譜やコード譜を分析すると、鈴木康博によるアコースティックギターのカポタスト配置とアルペジオのボイシングが、小田のエレクトリックピアノと完璧な周波数分離を果たしていることが分かります。互いの音を濁らせず、かつ隙間のない重厚なハーモニーを生み出す職人技のアレンジメントこそが、何年経っても色あせない音響的耐久性の根源です。