連載開始当初から数多くの読者アンケートで常にトップクラスの人気を維持し続ける聖徳太子。その人気の根底には、徹底的に計算された「権威の脱構築」と、人間心理の急所を突くキャラクター設計が存在します。
歴史上の聖徳太子(厩戸皇子)といえば、十七条憲法の制定や冠位十二階の導入、一度に10人の言葉を聞き分けたという超人伝説で知られる日本史屈指のカリスマです。しかし、増田こうすけ氏が描いた太子は、他人の話など最初から1ミリも聞いていない上に、プライドだけは富士山より高く、痛がりで嫉妬深く、退屈を極端に嫌うトラブルメーカー。この歴史的偉人に対する容赦のないパロディ精神が、読者に強烈な解放感を与えます。
さらに特筆すべきは、小野妹子とのボケとツッコミの黄金比率です。妹子は太子に仕える身でありながら、太子の幼稚な奇行に対して容赦のない毒舌と冷徹な暴力(正当防衛)を浴びせます。この二人の間に流れる空気は、単なる主従関係ではなく、「互いにこいつしかいない」という奇妙な共依存を孕んでいます。どれほど理不尽に振り回されても妹子は太子の側を離れず、太子もまた妹子の前でしか全力の甘えと暴走を見せられません。この乾いていながらも絶妙に成立しているバディ関係が、読者に中毒性のある心地よいテンポ感をもたらしているのです。