日々の暮らしで誰もが目にする10円硬貨。その表面(数字が書かれていない側)に堂々と刻まれているのが平等院鳳凰堂です。この意匠が採用されたのは昭和26年(1951年)の法改正を経て、昭和28年(1953年)に現行デザインの10円青銅貨が発行された時でした。
選定された最大の理由は、「日本の伝統美と建築技術を象徴する最高峰の建造物」であったことです。戦後の復興期において、日本が誇るべき歴史的文化財として国を代表するシンボルが求められていました。鳳凰堂の左右対称(シンメトリー)に近い均整の取れた美しさと、屋根に立つ鳳凰の威厳ある姿は、平和と文化の復興を願う硬貨のモチーフとしてまさに理想的でした。
さらに、実用面における「偽造防止技術」の観点も大きく関係しています。鳳凰堂の細やかな木組み、反り上がる屋根、複雑な柱の配置といった精緻なディテールは、当時の高度な金型彫刻技術を余すところなく発揮でき、偽造を防ぐための細工に適していました。ちなみに、日本銀行券の最高額紙幣である1万円札の裏面にも鳳凰堂の屋根に据えられた「鳳凰像」が描かれており、平等院の意匠は日本の通貨文化において極めて特別な位置を占めています。