屋台文化の消滅を加速させているもう一つの震源地が、深刻な後継者不足だ。固定店舗と異なり、屋台の営業は過酷を極める。夕方にリヤカーを引き出して組み立て、深夜まで立ちっぱなしで接客し、明け方に解体して清掃する。天候に左右され、冬は凍える寒さ、夏は猛烈な湿気と熱気に晒される現場環境を嫌い、店主の子供が跡を継がないケースが常態化している。
数十年かけて継ぎ足されてきた呼び戻しスープの技術や、骨の選別と火加減の呼吸。これらはマニュアル化が極めて困難な職人技だ。外食産業全体のシステム化が進むなか、日本ラーメン協会など業界団体も伝統的な調理技法の保存に危機感を募らせている。かつてラーメン評論家の故・武内伸氏が情熱を注いで記録し続けたような、個性あふれる店主たちの独自の調理理論や無骨な哲学は、継承者が現れなければ一代でこの世から消滅してしまう。
実際、名物親父の引退とともに寸胴鍋が冷え切り、常連客が涙を呑んで別れを告げた店は数知れない。「親父の背中を見て覚える」という従来の職人育成モデルは完全に破綻しており、技術をいかに次世代へ手渡すかが喫緊の課題となっている。